『朝が来る』感想つづき
辻村深月さん『朝が来る』の感想つづきです。
この作品がすごいと思ったところは、生みの親であるひかりと養親の佐都子と夫の人生が丁寧にしっかり描かれていること。
佐都子と夫(栗原夫妻)が出会い、結婚して、不妊治療に至るまで、不妊治療をうけはじてからの夫婦関係のこと。
ひかりの生活、妊娠がわかってから出産後のこと。
心の動きがとにかく丁寧に描き出されていて、佐都子とひかりという二人の女性どちらの女性の気持ちにも引き込まれる。
辻村さんの作品から個人的にいつも感じるのは「普通ってなに??」という問いかけ。この作品でも感じた。「普通は~」という言葉をつい使いがちだったり、頭のなかで無意識に普通の基準を求めていたり。そんなものが不確かなものだと思い至る。
ひかりは普通の家庭で育った女の子。そんな女の子が家庭のなかに居場所を感じられず、家を出ていく。でも、10代の少女が生きていくにはあまりにも過酷で厳しすぎる社会。
「なぜ」「どうして」という大人の問いかけに対して言葉で返す術を持たず、結果的に彼女たちを傷つける。それがどうしてなのかを充分に読者に理解させるのではないか。
日本は血の繋がりが重視される社会なのだと思う。しかし、佐都子にもひかりにも朝をもたらしたのは朝斗という子ども。救われたのは親のほう。そんな事実を目の前にしたら血の繋がりよりも大事なことがあるんじゃないかって思う。
人間関係という箱のなかで生じる心の動きだったり、ひずみみたいなものを本当に上手に描かれる作家さんだと思っていましたが、今回の作品を通して現代の子どもたちの生きにくさに寄り添っている作家さんだとも思いました。