過去と向き合い、解放されていく~桜木紫乃『風葬』
ここ2年ほどで結構好きな作家さんです。
私の感じる桜木さんの作品の魅力は「女性」。女性であるがゆえの醜さ・愚かさを描くのと同時に女性だからこその忍耐強さ、賢明さを感じさせてくれます。
どろどろしてるんです、、、、本当に。
今回のお話。
認知症の症状が出始めた母の一言である「ルイカミサキ」。この言葉に惹かれるように自分の出生の秘密を知ろうと動き出した夏紀。
一方、定年退職をした元教師・沢井徳一は「涙香岬」をみたいと自分を訪ねてきた夏紀と出会い、教え子の不審な死の真相を知るために動き出す。
徳一とその息子・優作は命の危険にあいながらも真相に近づいていく・・・・というお話。
認知症の母・春江は最後まで夏紀に真実を話さないんです。人は自分の弱さや幼さを半ば正当化したいがために話すということもあると思います。でも春江は絶対話さない。最後まで読み終わったときに「そうか、これは生きることへの覚悟だったのか。」と感じました。
夏紀は結局最後まで自分の出生の秘密は知らないままで小説は終わります。
徳一の教師としての悔い、父の姿を通して再生への道を歩み始めた息子の優作のストーリーからもいろいろなことを深く問いかけられたように思います。
過去に囚われることは人間の愚かな側面かもしれません。でも過去から解放された時にその人の道を歩んでいくことができる。過去をたどることで自分の生きる道を照らしていく・・・・。
静かな希望を感じさせてくれる1冊でした。